どうも、しんば(@shimbakone)です。
我が家は工務店の標準仕様から大幅に断熱強化をしています。
そこで今回は、我が家の仕様と標準仕様で、温熱環境に関するシュミレーションをしてみました。
- どの程度断熱性があがるのか
- 室温はどう保てるのか
- 省エネによる断熱強化費の回収はできるのか
といったあたりについて分析しました。
少しマニアックな内容であり、長めの記事(7000文字超え)になっています。
それではいってみましょう!
協力していただいたのは
やまのすみか株式会社(鳥取県)の田上夫婦(@yamanosumika)(@MayuTagami)のご厚意で、我が家の光熱費シュミレーションを行っていただきました。ありがとうざいます。
付加断熱とトリプルガラスサッシをこれからの必須条件と考え、HEAT20 G2以上(Ua値0.3以下)の家づくり「だけ」を行う工務店。
家の耐久性や住環境、健康や環境にも配慮したこれからの家づくりをされている。
パッシブハウス・ジャパンに所属されており、高性能な家を建てられています!そして自社社屋をドイツのパッシブハウス認定(めちゃくちゃ厳しい基準)で計画されているようで、気鋭の工務店です。
さらにあのとっとり健康省エネ住宅性能基準の策定に関わっている方です。
シュミレーションの前に
では本題にはいっていきます。シュミレーションにはホームズ君というソフトを使って行っていただきました。
我が家の仕様(断熱強化)と、標準仕様(断熱強化無し)で比較を行います。
冒頭にも書きましたが、
- どの程度断熱性があがるのか
- 室温はどう保てるのか
- 省エネによる断熱強化費の回収はできるのか
このあたりを検証します。
シュミレーション条件
- 建物の構造(窓サイズなど)は変えない
- 断熱材を追加(屋根、床)※壁はそのまま
- 窓・玄関ドアの変更
- 換気システムの変更
と、断熱強化を行った部分のみ仕様を変更します。
今回の記事では計算して数字で比較をしていますが、気密断熱(C値、Ua値)の数字だけで、実際の快適性や省エネ性は決まりません。
換気計画や日射取得・遮蔽などパッシブデザインの設計部分もかなり重要です。
今回はシュミレーション可能な範囲での比較という事でご理解ください。
どんな家(環境)なのか
まずは、我が家の建物がこちらです。2019年3月竣工です。
構造 | 木造2階建て |
---|---|
延床面積 | 44.39坪 (1F:27.05坪 2F:17.34坪) |
C値 | 0.277 |
地域 | 静岡県(6地域) |
私が住んでいるのは比較的温暖な6地域であり、年間の外気の推移(アメダスの気象データ2001〜2010年の10年間に基づく)はこのようになっています。
最高の外気温は8月の32.1℃、最低の外気温は2月の-1.0℃です。
連暖房費のシュミレーションは、
冬場は20℃以上、夏場は27℃以下に室温を保つようにエアコンを連続運転
として、計算しています。全国に比べると気候的にはかなり過ごしやすい地域ですね、静岡県。
エアコンはリビングに1台、小屋裏に1台を設置しています。シュミレーションでは、各エアコンが各階を冷暖房する形で計算されています。
断熱関連の仕様
では、まず工務店標準の断熱仕様を見ます。
比較プラン(標準仕様)
屋根 | 押出法ポリスチレンフォーム第3種 60mm |
---|---|
壁(充填) | 高性能グラスウール16k 100mm |
壁(付加) | ビーズ法ポリスチレンフォーム 32mm |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム第3種 40mm |
窓 | YKKAP APW310(ペアガラス+樹脂アルミ複合) |
玄関ドア | ヴェナート |
換気 | ダクトレス第3種換気(パイプファン) |
Ua値 | 0.69 |
※Ua値とは家全体の断熱性能を表す指標で、低いほど断熱性能が高い。
Ua値0.69であっても、壁に付加断熱をしていることが特筆すべき点です。体感的に快適性に効いてくるだろうという点、そして躯体の耐久性にもつながると思います。
とはいえ、天井・床の断熱は壁に対して薄すぎて、冬季に寒い感じを受けてしまう事、また夏場の2階がかなりきついだろうという事でした。
設計プラン(我が家仕様)
次に断熱強化をした我が家の仕様です。
屋根 | 押出法ポリスチレンフォーム第3種 60mm + 75mm |
---|---|
壁(充填) | 高性能グラスウール16k 100mm |
壁(付加) | ビーズ法ポリスチレンフォーム 32mm |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム第3種 40mm +吹付け発泡ウレタン断熱100mm |
窓 | YKKAP APW430・431(トリプルガラス+樹脂サッシ) |
玄関ドア | イノベストD50 |
換気 | ダクト式第1種全熱交換換気システム |
Ua値 | 0.41 |
赤字は追加or変更した箇所です。
屋根、床には断熱材を追加し、開口部(窓、玄関ドア)に関しても断熱性の高いものを選びました。窓の結露を気にしたので、トリプルガラス+樹脂サッシを選んでいます。
これらの変更によりUa値は0.69→0.41まで激減しました。
数字だけだとわかりにくいので、下図で見てみましょう。
比べて、我が家(0.41)はG2レベルを満たしており、これであれば、高気密高断熱住宅を名乗っても差し支えないレベルだと思います。
断熱強化費用
これらの断熱強化にかかった費用は、合計200万円ほどです。(200万あれば、設備をグレードアップなどいろいろな事ができますが…)
内訳は以下のとおり。
(※換気システムは厳密には断熱強化ではありませんが)
断熱強化をした理由
6地域なので、寒い地域に比べると断熱性能はそこまで要らないという考えもあるかもしれませんが、省エネ、快適性(健康)や結露防止(長持ち)などメリットがあるので、私は断熱性は必要だと考えました。
長く住むのならHEAT20 G1,G2あたりがコスパ良いと言われているので、最低でもG1、うまくいけばG2ってくらいで考えていました。
(Ua値ベースで仕様を変更しわけではないので、Ua値の数字は入居後に届いたBELS認証で知りました)
シュミレーション結果
では、シュミレーションの結果を見ていきましょう。内容はこちらのとおりです。
- 断熱性能の比較
- 年間室温の比較
- 代表日室温の比較
- 年間冷暖房費の比較
それぞれ見ていきましょう。
1:断熱性能の比較
ちょっと見にくいのですが、わかりやすいのは、縦に並んだ真ん中のグラフ(建物が損失する熱量、取得する日射量の比較)です。棒グラフが低いほうが性能が良いという事になります。
ピンク色(プラン1)の棒が我が家仕様で、グレー(プラン5)の棒が標準仕様です。
Ua値からわかる事は、断熱強化した部分の熱損失量は半分以下になったという事。
ηAC値からわかる事は、断熱強化した部分の(夏場の)外部から入る熱量が軽減されているという事。
これらをまとめると、快適に保った熱(暖気・冷気)が外部へに出てしまうロスがかなり抑えられており、夏場の外部から入ってくる熱も抑えられるので、断熱強化の効果はしっかり出ていると言えそうです。
断熱強化の優先順位に関しても納得した部分があります。
よく「窓>屋根(天井)>床>壁」でやると快適性を高めつつコスパが良いと言われます。開口部は熱の損失が一番大きいので、まずは窓から断熱強化をしましょうという意味です。
Ua値のグラフを見てもらうとわかるのですが、開口部(窓・玄関ドア)の熱損失が他の部位に比べて大きいですよね。これが断熱強化後だと、かなり改善されています。
標準が「ペアガラス・アルミ樹脂複合サッシ」、我が家が「トリプルガラス・樹脂サッシ」ですから、圧倒的に性能をあげる事ができました。
断熱性能の弱い開口部から断熱強化をするとコスパが良いという事がよく理解できますね。
2:年間室温の比較
1年間の外気温・室温の変化が、グラフでわかるようになっています。
水色の波が外気温、オレンジ色の波が室内温度を表しています。
設計プラン(我が家仕様)
比較プラン(標準仕様)
ちょっとわかりづらいですが、この結果からわかるのは、
- 冷暖房をしている期間(黄色い期間)は、どちらのプランも問題無く快適な温度帯に存在している(上27℃、下20℃)
- しかし、冷暖房をしていない期間は、比較プラン(の5月あたり)で17℃くらいまで室温が下がってしまう
- また、10月あたりは設計プランのほうが室温の底上げができている。(ちょっと暑いくらいかも)
といったところですね。
やはり断熱強化した方が室温のブレが少なく安定しているように感じられます。
3:代表日室温の比較
LDK、主寝室はオレンジ色に見える線で、冬場は20℃に、夏場は27℃に保たれているので、点線、実線が重なって一本になっています。ここに関しては差異はありませんね。
紫色の線が浴室の室温になっており、我が家で一番冷暖房の影響を受けづらいようです。実線が設計プラン(我が家仕様)で、点線が比較プラン(標準仕様)です。冬場・夏場ともに、断熱強化をした方が、どの時間帯でも(若干ですが)快適な温度寄りになっていますね。
ただ、この浴室のシュミレーションについては実態と少し違うかなと感じました。この結果だと、冬場の浴室は15℃を切っておりかなり寒くなっていますが、実際の生活ではリビングのエアコンだけで、浴室が20℃(体感)以上を保てている感じがあります。(浴室暖房は使いません)
4:年間冷暖房費の比較
年間の冷暖房費の比較になっています。今回私が一番気になったところです。
電気料金は比較しやすいように一律27円/kWhで計算されています。
採用のエアコン性能を入力し、使い方を連続暖冷房(居室)としています。
赤色の棒が我が家仕様の暖房費、青色の棒が我が家の冷房費になります。グレーの棒はそれぞれ標準仕様です。
暖房について
グラフを見ればわかるとおり、圧倒的に暖房費に関しては抑えられています。家から逃げていく熱が少ないので、暖房負荷も低くなるというわけですね。
断熱性能の比較でも触れましたが、開口部(窓や玄関ドア)の熱の出入りが大きいのでここをかなり断熱強化した効果が出ていると思われます。
窓についても南面を日射取得型にしているため、これが有利に働き、暖房費にかなり差が出ていると言えそうです。
冷房について
予想に反して(8月を除いて)標準仕様の方が冷房費が低いです。せっかく断熱性を高めたのに、なぜか冷房費が高くなっているという結果に。
冷房費は、エアコンの能力が大きすぎることが作用しています。能力は高いのですが、機器が効率の良い負荷で働けていません。
例えるならプリウスが高速では燃費がいいのに、街乗りで燃費が悪くなるイメージかと。
なるほど。エアコンはある程度の負荷がかかっていないと運転効率が落ちてしまうので、断熱性能を強化した故に燃費が悪くなっているわけですね。
工務店仕様だと機器にかかる負荷が高いので、その分が冷房費が下がる、という逆説的な結果となりました。
我が家は10畳サイズのエアコンをそれぞれ設置していますが、シュミレーションからするとオーバースペックだったようです。
そういったメカニズムがわかれば、8月だけ我が家が有利だった事も説明がつきますね。外気が暑くなり冷房の負荷が高まった事で、エアコンの運転効率がよくなったと言えそうです。
もっと寒暖差のある地域に住んでいたら、断熱強化の恩恵をより受けられた感じがしますね。
しんば邸の仕様だと1F2Fともに6畳用エアコンでまかなえるので、機器更新のときには能力を下げると冷暖房費が下がると思います(地球温暖化で冷房負荷がすごく上がるとか無ければ…)
エアコンのサイズを必要以上に大きくしてしまうと、本体価格もあがりますし、冷房費も上がってしまい、二重でお金の負担が増えるようです。
シュミレーションではこのような結果になりましたが、実際の使い方としては少し違っています。
冷房は小屋裏エアコンが主、暖房はリビングエアコンが主となり、建物全体を冷暖房する使い方をしています。足りないと感じたときにだけもう片方を運転する感じです。
よって、実際とは少し乖離を感じる結果だった思います。
というのは、そもそもホームズくんでは階間の熱移動は計算されないようなんですね。今後、エアコン1台で冷暖房を行うような家が増えてくると思うので、ここがうまく計算されるようになると良いなと感じました。
冷暖房費の削減
さて、シュミレーションで知りたかった、冷暖房費がどれくらい削減できるのかという点ですが、結論としては、年間22,000円ほどの削減となりました。
単純に200万を2.2万円で割ると、光熱費としてコストを回収するには90年間かかる計算になります。90年…私は死んでるし、建物がそこまで持っていない可能性の方が大きい…。
思っていたよりも、光熱費としてコストを回収することはできなさそうですね。
感覚的には、200万かけた価値は十分にあると思いますが、光熱費だけで評価したときは単純に回収とはならない、というのが結論ですね。
(ちなみに)実際の光熱費との比較
シュミレーションの光熱費がどの程度、実際に即しているか気になったので、HEMSの金額と比べてみました。(消費量に価格をかけて出しているシンプルな算出方法なので、比較しやすいかと)
HEMSの数値
シュミレーションの数値
換気だけはかなり差が出ていますが、おそらく我が家は換気量を少し絞っているからだと思われます。それ以外は概ね近い数字が出ている感じがあります。
参考に実際の光熱費はこちらの記事で公開しております。
シュミレーションソフトでは、建物の断熱性、熱損失、室温の変化、光熱費などいろいろな分析ができるようです。建てる前の設計段階でこういった分析ができると、どこまで性能にお金をかけるのかマネープランも立てやすくなりますね。
また、エアコンサイズを選ぶのにも、室内の広さや冷暖房負荷から計算によって選ぶことができそうなので、我が家のようにオーバースペックサイズを買って、運転効率も悪く、必要以上にお金がかかるという事も防げそうです。
まとめ
今回は、田上さんの協力のもと、我が家の断熱強化の効果を検討してみました。
結果
我が家の断熱強化(6地域でZEH未満→G2レベル)は
- 断熱のバランスが良くなった
- 室温を保ちやすさがかなり向上した
- しかし、光熱費だけでコスト回収するのは厳しい
という事がわかりました。
実際の使用と少し異なる点はあれど、仮に正確にシュミレーションができたとしてもこれが覆される事はなさそうな感じはします。
(あくまでも我が家の場合であり、ちゃんとしたパッシブデザインでもって設計をしてもらえれば、より光熱費を抑える事も可能だと思います。)
この結果だけを見てしまうと、断熱必要なくない?と感じてしまうかもしれません。
とはいえ、断熱は光熱費削減だけじゃない
我が家の場合、もともと光熱費だけを目的に断熱強化をしたわけではありませんでした。結露防止や、建物の耐久性を高めるため、そして健康で快適に暮らしやすくするところを求めていました。
- 室温が一定になりやすいので、不快感が減る
- 厚着しなくてもよい、布団薄くて良い→持ち物が減る、収納に余裕が出る
- 局所暖房が不要、電気ストーブなど
- 健康が維持できる(健康を損ないにくい)→医療費の削減
- 結露しにくい→カビダニの発生を抑える
といったお金だけではない部分、主に健康ベネフィットと呼ばれる部分に価値があると考えています。
生活の質が劇的にとは言いませんが、ちょっとだけは変わりますし、ライフスタイルにも影響してくるものだと思うので、なかなか効果のあるものだと思います。
個人的には、(しんば邸は)コスパとバランスの良いプランだと思いました。太平洋側でこの性能なら、快適に暮らせると思います。もちろんこれより上の領域もあるとは思いますが、費用対効果が若干落ちる領域にはなってきます。
性能を突き詰めている実務者の方からこのような評価がもらえると嬉しいですね。素人が仕様を決めたわりには、バランスが取れた仕様になってよかったです。
田上さん、シュミレーションのご協力ありがとうございました。
(実は他にもいくつかデータがあるのですが、情報が多すぎになってしまうのでこの程度にしました。すみません。)
追記:
やってみて色々わかる
・やはり光熱費で回収というのがちょっと難しい(営業トークでは使えない)
・エネルギーコストは上昇が予想されているので、もう少し光熱費の回収は早い可能性
・耐久性や健康、エネルギーの輸入といった、時間軸が長かったり、個人を超えて社会にとっての便益も考慮したい https://t.co/fLAJ7G1eQp— 田上知明@やまのすみか株式会社 (@yamanosumika) June 18, 2020
おわり
最近は、住宅系の先端を行くの実務者がYoutubeで発信を行っているため、施主側で知識を持つ人が増え、性能面から判断する方が増えてきているように思います。(松尾先生、早田代表、本田さん、本橋さんなど)
温熱性能があまり重要視されなかった時代から、そういった方向へ動いていく過渡期なような気はしています。
一条工務店が売れている状態を見ればわかりますが、市場がそっちへ向かっているのであれば、業界側もそちらへ行く事は必然になるんじゃないかなと思います。
個人的にも、HEAT20 G1レベルは最低かなと思っており、G2あたりが長期的に見れば(金額以外も含めて)コスパが良いのではないかと感じています。
この辺はただの素人感覚であり、実際に何十年と経ってみないとわかりませんので、答え合わせは数十年後に。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。